charset=euc-jp
http://ffeck.tsuchigumo.com/

■HP蜘蛛夢■


(初版2000.10.26;微修正2014.10.16;更新2004.6.4)


【選挙や国会関連は参議院の専門にしよう:憲法の部分修正】



 現在の二院制は、イギリスの過去の身分制社会から議会制度が生まれた事情に由来 する遺物であると思う。参議院は衆議院のチェックをする役割がある とされてはいるが今の制度では不可能である。

 参議院でも与党が過半数を持った時は衆議院のチェックなどできないし、 参議院で与党が過半数に達しないが衆議院で与党に3分の2以上の議席が確保されている 時は、ほんの少し進行を遅らせるだけだ。 参議院で与党側が過半数に達しない上に衆議院で与党が3分の2以下の議席 である時は、野党が妨害行為に熱中するだけである。

 そこで単に一院制にするということではなく、二院制を意味のある ものにする提案をしたい。

 仮に、参議院の機能を変えずに衆議院にたいする力が今より強化された場合には どうなるだろうか。選挙の間隔の長さから、変化に対しては遅延効果を持つだろう。 それを、安定性をもたらす仕組みのように思う人がいるかもしれないが、 そうではない。

 私は民主制が十分に機能するなら、社会的な調整作用を積極的に利用 できる政治的仕組みだと思う。一般に、調整作用があるシステムでは調整が遅れたり、 その程度が弱かったりすると矛盾が蓄積されて、結果的に激しい変動をもたらす。 政治体制を単純なフィードバックシステムで比喩できるとは思わないが参考にはなる。

 日本の社会は民主制が十分に機能するための仕組みが整っていないように思う。 逆に既得権をもつ層に有利な制度のために、問題が先き送り されて調整が遅れるのを繰り返したのではないか。利権で寄り集まった与党政治 家が既得権を保持することを最優先にしているから事態は悪化するばかりではないのか 。たとえば、民主制の基本的な大前提である選挙区の定数さえ信じがたいほど非常識 な格差のままに放置されているために政権交代がしにくいのではないか。

 今の多くの日本の国会議員は、自己の利害に関しては、自制的な倫理を常に保 つことは無理なのである。事実がこれを証明してきた。例えば、政策秘書制度を 提言されれば骨抜きにしてしまう。特権的な議員年金を作ったりする。 世襲議員が生まれやすい税制を放置する。 これまで私達はこういうことを十二分に見てきた。 もっとも、既得権のために社会的合理性を破壊しようとする権力層は国会議員だけで はない。だからこそ中心の仕組みは厳正に組み立てる必要がある。そこで、参議院の 機能を変更することが必要だと思うのである。

 国会議員であるという自負をもって、彼らに一度だけ、短期間でいいから 、自己抑制的な倫理を発揮して、チャレンジしてもらいたいことがある。それは参 議院の機能を、選挙と議会に関する専門の立法機関に変えるということである。参 議院のそれ以外の立法に関する権限はなくしてしまう。選挙と議会に関する立法につ いては衆議院では扱えないようにして、参議院が衆議院に完全に優先するようにする。

 これなら参議院の定数は20〜30人位で十分だ。衆議院は選挙や議会制度の改 修、議員のスキャンダル調査、区割りや定数の変更などのメンテナンスを参議院に任せる ことで、政治改革という倫理的ハードルを踏み倒しながら走る必要がなくなり、 より実質的な課題に取り組むことが出来るし、参議院は意義と権威のある存在になる。 これで選挙制度や国会議員の在り方が完全に利権から独立できるわけではないが、 利権に関与する仕組みは多少は間接的な方向に向かうだろう。試合中に優勢な プレイヤーがルールを都合のいいように変えるようなことはやめた方がいい。

 問題は憲法の改正が必要なことである。今まで、与党・自民党の右翼的勢力が後ろ 向きの憲法改正を声高に主張してきたから、逆に野党・左派が護憲を旗印にするねじれ た政治状況が続いてきた。

 現憲法は成立当時の状況を考えると日本にとって幸運な、貴重な贈り物であった と思う。しかし、憲法は修正してはいけないというものではない。第一章や第二章の 変更は、違う方向を向いてる勢力が対立しているテーマであるし、緊急を要するテーマ でもない。今は憲法の全面改定を必要とするような状況ではないと思う。第一章や第 二章の変更は安全なテーマでの修正の経験を積んでからでも遅くはない。

 一回の憲法の修正では、一つのテーマだけに取り組むべきである。複数の テーマを抱き合わせて、その結果、事態が進まなかったり、妥協による改悪が滑り込 むような事態は避けるべきである。まず与野党でこの点の合意をしてから、参議院の機 能を変更する方向に進んでもらいたい。


  補足:機能を限定した参議院の選挙の投票率がどの程度になるかという問 題はある。依然として参議院の選挙区割りをどうすべきかという問題は残る。地方ご とに選ぶ小選挙区なら今の知事選挙と同じような感じになる。これでいいかどうか。たぶん、 地域代表という性格はもたせないほうがいいだろう。全国区ならば金がかかるという が、定員が少なければ誰でも知ってるような人が金をかけずにできるのではないか。


  補足2:当事者でないと把握できないこともあるから、衆議院での 国会議員に関する法律の法案提出権を残してもいいかもしれない。 ただし、立法には参議院の承認を絶対に必要とするのである。


  補足3:選挙区定数さえ不合理なままにして権力を保持している政党や 議員に正統性はないのである。人口密度の違いを選挙区定数の不合理を許容すべき 理由とする政治家がいるが、それは問題のすりかえである。人口密度の低い地域に 多くの定数を配置することは利益誘導による政治家の存続を容易にして質の低い 政治をもたらすのである。


  補足4:軍国主義からの解放とリンクした現憲法制定とその後の 冷戦の影響で、日本の政治の対立軸が安保条約、憲法9条に なってしまったのは残念である。本来、防衛問題というのは、同じ船に乗っている 者同士なのだから政党の対立軸としては不適切なのだ。合理的に考えれば、 そんなに対立するような問題ではないはずだ。問題は、右傾化して時代錯誤の言説が 蔓延している上に、まともな政治が実現してないことである。 軍事組織と関連利権団体は取扱がやっかいな存在であり、過去、 軍国主義で日本が崩壊してしまったことを考慮すると、 政治がまともでない状態で軍事に対する縛りを緩めるのを 躊躇する人が多いのも無理はない。



著:佐藤信太郎
メールアドレスは目次にあります。


●目次へ●