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(初版2011.4.7;微修正2016.7.9;更新2014.5.23)

「日本の技術は優れている」と発言した専門家




東京電力の福島第一原発の水素爆発の映像を見て、昔のことを思いだした。 昭和40年代初期、中学生になって私は理科部に入った。最近の部活動の位置付けが どうなっているのか知らないが、当時は、やりたい生徒だけがやるものであった。

顧問の先生は中学生を放任するに近い状態であった。 今、考えるとあれほど自由にできたのは当たり前のことではなかった。 ハラのすわった先生だったのだろうか。 火気を使った遊びをする生徒もいたし、ハツカネズミのような臭気のきつい動物を 理科室で飼育する私達のような生徒もいた(後で場所を移動させられたような記憶も あるが、怒られた記憶はない)。この先生は放任主義ではあったが、不熱心な教師と いうわけではなく自分の不得意な遺伝分野については希望者をつのって三島の国立 遺伝研に見学に連れて行ったりもした(※1)

私達は理科室にあった実験書などを参考に自分達で実験をしていた。あるとき 水素発生の実験をしようということになった。

三角フラスコに水を入れて、ガスバーナーで加熱して水蒸気を発生させる。 それを鉄粉を入れたガラス管に導く。そのガラス管は別のガスバーナーで加熱する。 加熱された鉄粉を通過した気体を集める(水を入れたガラスビンを倒立させて気体と 水を置換する)。
水蒸気(H2O)から酸素(O)が鉄粉に取られて水素(H2)が 大量に生じるのである(※2)。集めた水素に火をつけてキュン、 キュンと小爆発させた。

この実験の準備をしているときに上級生がたまたま見に来て重要なアドバイスをして いった。最初に出てきた気体は捨てろと。酸素が混ざっている可能性があるので 大爆発するかもしれないからだ。そんな注意は実験書には書いてなかったので感心 した。顧問の先生が放任主義でも事故を起こさないですんだのは、 しっかりした上級生がいたからだった(※7)

福島原発で爆発があったとき、専門家はすぐに水素爆発だと解説した。 そういう危険が有りうると分かっていた訳だ。それなのに対策をして いなかった(※12)。 私が中学生の時に使った実験書に大爆発を避けるための注意が書いてなかったのは、 頻繁にそんな事故が起きることがないからだろう。それでも、その危険は避けるべき なのだ。中学生でも出来る危険回避をしないでおいて、安全という言葉だけ張り つけて作られたのが原発である(※14)

彼らにあるのは希望的観測だけ。事故が深刻になった段階でも、甘い予測をして 「日本の技術は優れている」と発言した専門家がいた(※8)。 フェイルセーフという言葉は知っていても、やったのは小事故に対するものだけ。 大事故はないことにしたので、高レベルの放射線環境での作業に対する準備は 何もなかった(※13)。アメリカから提供されたロボットを 使い始めたのは、かなり日数が過ぎてからであった。

大津波や大地震についても警告していた人はいたという (※9)。 有りうる危険を「無い」と言い張って作られたのが原発である (※10)。 原発を作るという結論が先にあったから、批判や異論には耳をかさないのが 常になったのである。この国の上層部は、核兵器製造能力を保持したいと望んだ のである(※11)。多くの国民の意識とは異なる望みだ。



【参考】


※1 当時、国立遺伝研で見学したのは植物に放射線を照射して 品種改良をしている研究であった。早い時期から放射線遺伝学の研究をした市川定夫の 本『遺伝学と核時代』(社会思想社/1984)によれば、放射線による品種改良の成果は ほとんど出なかったという。TVでは微量の放射線は安全だという専門家ばかりが出て いる。しかし、市川は体内被曝を重視して、微量の放射線でも影響があると述べている。 原発周辺に植えたムラサキツユクサの突然変異率の長期記録の結果、突然変異率の 上昇が、原子炉の運転中にかぎり、原発の風下の地点でのみ起こっていたのである。


追記
東京新聞(2011/6/23)「こちら特報部」によれば:
最近、低線量の内部被ばくの懸念が高まっている。米国の原子炉や核実験場の周辺住民 の乳がん発生率などの増加を示した著書が注目されている。

米国の公衆衛生学者ジョセフ・マンガーノ氏の疫学調査によると、米国内で1989年から 98年にかけて閉鎖された原発6基の周辺40マイル(64キロ)で、ゼロ歳から4歳までの 小児がん発生率が、原発の閉鎖後に平均で23.9%も急減した。同時期、米国全体での 発生率は微増していた。

4月に出版された「低線量内部被ばくの脅威」(緑風出版)も、同様の事実を明らかに している。著者は統計の専門家ジェイ・マーティン・グールド氏。米国の原子炉や 核実験場周辺の160キロ圏内で、乳がんの発生率が急増していたことを突き止めた。 古い原発7基がある14の郡では、50〜54年の時期から85〜89年の時期までの間、 白人女性の十万人当たりの死亡率が37%上昇した。同時期での米国全体の上昇率は 1%で、大差があった。

「米国立がん研究所の調査は『原発周辺の住民の健康に影響がみられない』として いたが、汚染が及ぶ地域を対象に入れないなど統計学的な手法に問題があった」 (戸田清・長崎大学教授)。


追記
NHK総合テレビのNHKスペシャル『徹底討論どうする原発』(2011/7/9)によれば: ドイツ政府は市民の要求に応じて、全ての原発について、原発と子どものガンに関する 調査(2007年)を行った。原因は不明だが、原発の近くに住む子どもほどガンの 発生率が高いことを認めた。
※2 ラジオで水素爆発のニュースを解説したある記者は、 燃料を被覆するジルコニウムという金属が特殊な性質をもつために水素が発生すると 説明したことがある。ジルコニウムでなくても水素は発生する。 テレビでニュース解説をした記者の中にも、高温の金属の酸化に伴う水素発生と、 放射線の電離作用による水素や酸素の発生を微妙に混乱して説明した例があった。
追記
月刊総合雑誌にでた元科学ジャーナリストの記事では、 「高温のジルコニウム燃料管の触媒作用による水の水素と酸素への分解」と書かれて いた。念のため専門家と見なせる人が書いた本をいくつか確認してみたが、触媒作用 と書かれたものはなく、酸化還元反応などと書かれていた。

水素が発生する温度については、書物や報道メディアにより違う数値が出ていた。 私が確認した書物には、520℃、700〜800℃、850℃、1000℃、1200℃などの数値 があった。

燃料管(被覆はジルコニウム合金のジルカロイで作られる)が損傷すると、 水蒸気または冷却水と反応して水素が発生すると説明されている場合も多かった。

燃料管の被覆(ジルカロイ)が溶ける温度を1200℃という人もいたし、 1800℃という人もいた。前の説明と組み合わせると水素発生の温度の高い方は 1800℃となる。

メルトダウン(炉心溶融)が起こると水素が発生すると言ったTV番組もあった。 これとは別のTV番組ではメルトダウンの温度を1800℃、別のTV番組では 2500℃だと言っていた。組み合わせると水素発生の温度の高い方は2500℃となる。 水素発生開始の温度について520℃から2500℃まで数値が出たことになる。

水素発生開始の温度を特定するのは意味がないのではないか。鉄の酸化を考慮すると、 温度が高ければ反応が激しいというだけで、その温度を境に反応が起きたり、 起きなかったりということではないように思える。

(参考:理化学辞典によればジルコニウム化合物の中には強い還元力を持ち 水を分解して水素を発生する物質もある。しかしジルカロイではない)

(参考:理化学辞典によればウランの融点は1132℃、ジルコニウムの融点は1857℃、 プルトニウムの融点は639.5℃)

(参考:事故から2年を過ぎた2013年8月14日の東京新聞は次のように解説している。 「核燃料は小指ほどの大きさの円柱形。それを長さ4mほどのジルコニウム製の被覆管 という筒に入れ、棒状にして原子炉に装荷する。ジルコニウムは900度ほどで溶け、 水と激しく反応し、水が分解して水素が出る。これが水ジルコニウム反応だ」)

(参考:ジルカロイによる水素発生の温度について様々な数字が出た理由が推測できる 記述が石川迪夫の『考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』 (2014)にある)

(参考:事故時の原子炉容器内外での水素発生の要因の分類は『科学』2014年3月号 (岩波書店)にある)

(参考:2016年6月28日の東京新聞には「ジルコニウム合金は1800度程度で、 ペレット(ウランを焼き固めた小指の先ほどの粒)は2800度程度で溶けだす」とある。 これは説明不足である。日本化学会の『化学便覧(応用編)』によれば、 金属ウラン燃料は温度で形が変るので動力用原子炉では大部分ウランセラミック燃料が 使われる。これは融点が2750℃と高く…優れている、とある)


※3 福島原発から海に漏出していた高レベルの放射性物質で汚染された水を止める ために使われた「水ガラス」も中学校理科部で「ケミカルガーデン」の デモンストレーションをするのに使ったことがある。ところで漏出した放射性物質に ついてヨウ素やセシウムの量は報道されているが、プルトニウムやストロンチウム90 は分析しているのか? これについての情報は報道で見たことがない。


追記
週刊金曜日(2011/4/29)によれば:
原子力安全・保安院の厳重注意で、東京電力が公表した後に引っ込めたデータがある。 福島第一原発敷地内の大気、付近の海水、タービン建屋内の溜まり水や地下水等で 検出された放射線核種データだ。ルテニウム106、ニオブ95など炉心溶融を裏付ける 重要なデータだが、4月4日に保安院に再評価を命ぜられた。以後、東電からは ヨウ素とセシウムしか公表されなくなっていた。

※4 中学生の頃に原子力発電の仕組みが、タービンを回すためにお湯を沸かすだけだ と知ったときには呆れてしまった。バランスが悪すぎる!ヒゲをそるのに 大型コンバインを使おうというようなものだ。頭の悪い、無責任な技術である。 理論的に、あるいは実験的に可能な技術なら何でも実用に移して良いという訳で はない。高速増殖炉は、水と激しく爆発的反応をするナトリウムを冷却材に使うという のだから、そんなものを実用化しようというのは馬鹿である。

タービンを回す以外の各種のエネルギー生産手段があるし、 タービンを回すためなら太陽がもたらすエネルギーのほうがいい。 これには従来の風力や水力の他に、潮流、薪炭なども考えられる。 ほかに地熱も利用できる。足りないなら、ぜいたくなエネルギー利用をやめるべきだ。 原子力発電をするようになる前の生活だって、そんなにヒドイものではなかった。


※5 エネルギー源としてのエタノール生産に穀物を使うのは愚かだ。セルロースを 利用する技術を確立すべきだ。メタン発酵はもっとエネルギーとして利用できる のではないか。


※6 風力の欠点がその変動性ならば平均化する方法を考えればよい。 仮の話だが、風力で海水を揚水する。それを使って水力発電するのはどうだろうか。 直接に風力で発電するなら、水を電気分解して水素生産に利用することは できないだろうか。

ヨーロッパでは多国間で電力を融通し、風力発電の不安定性を解消している。 風力発電量が多い時は水力発電量を減らし、風力が少ない時は水力を増やす という(東京新聞、2011/5/25)。


※7 ファーブルの『昆虫と暮らして』(岩波書店)には、 ファーブルが師範学校の学生だった時、先生が酸素発生の実験デモンストレーションを して事故が起きたときの経験が書かれている。ファーブル自身が高等小学校の教師に なったときには、注意深く行なって、酸素や水素のデモンストレーションに成功した という。学校の理科実験での水素ガスなどによる事故は現代も起きている。


※8 「日本の…は優秀」「世界に冠たる日本の…」という 自画自賛はよく聞いた。皇軍(旧日本軍)、官僚、警察・検察、技術、教育、 企業経営、衛生などについて言われてきた。 これが過剰な自尊心による幻想であることは、痛い経験を積み重ねてきたから、 そろそろ気付いてもいいのではないか?「井の中の蛙」が身内同士で優秀だって 言い合っていただけなんだ。

東京新聞(2011/4/14)の「こちら特報部」は元・原発技術者の菊池洋一に インタビューしている。菊池は福島原発にも関り、企画工程管理者として全体を 統括し、期限までに完成させる役目だった。

「原子力の技術は全然確立されていなかった。とにかくハチャメチャだった」。

図面の変更は日常茶飯事。強引な施行方法で図面とのつじつまを合わせた。 現場もずさんだった。未熟な作業員も少なくなく、「自信がない」とつぶやく若い 溶接工もいた。業者が工事ミスをメーカーや東電側に伝えることはほとんどない。

福島第一原発事故の後の報道で見えて来たのは、日本の危険対策は外国と比較しても 劣っていたということだ。外国の技術者が「ありえない」と発言するような ことをしていたのに「日本の技術は優秀だ」と自画自賛してきたのである。 日本の原子力推進の専門家は、科学者でも技術者でもなく、“原子力教”信者という べきである。
※9 東京新聞(2011/4/14)のコラム「筆洗」は、歴史書 『日本三大実録』にある貞観津波(869年)に関して書いている:
その痕跡は、宮城県石巻市から福島県浪江町まで内陸深く入り込んでいた。研究者は 福島第一原発が巨大津波に襲われる危険性を経済産業省の総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会で報告をしたが、東京電力側は取り合わなかった。
東京新聞(2011/4/15)の「こちら特報部」によれば:
「津波で被害が大きくなることは予想されていた。何度も東電に改善を求めたのに 対策を取らなかった」。元・福島県議の伊東達也氏は、こう証言する。 伊東氏が着目したのは「土木学会」が2002年にまとめた 「原子力発電所の津波評価技術」。福島第一原発で数十台のポンプが使用不能となり、 取水できなくなると指摘されていた。
TBSテレビ(2011/4/27)の「NEWS23クロス」によれば、多くの原発運転差し止め 訴訟の中で唯一差し止め判決がでた志賀原発2号機の訴訟の判決文(2006年3月24日) には、福島原発を予言するようなシナリオが書かれていた:
電力会社の想定を越えた地震によって原発事故が起こり住民が被ばくする可能性が ある。

外部電源の喪失、非常用電源の喪失、…様々な故障が同時に、…多重防護が有効に 機能するとは考えられない。

しかし、控訴審では「国の新耐震指針に適合、問題はない」という逆転敗訴になった。

毎日新聞(2011/5/15)によれば、大津波がきっかけで起こる原発の炉心損傷を、 経済産業省所管の「原子力安全基盤機構」が07年度からの報告書の中で想定し、 公表していたという。「想定外」ではなかったのである。津波による影響を評価する よう義務付けた国の新耐震指針が06年に策定されていたという。

東京新聞(2011/5/30)によれば、869年に起きた貞観地震による津波について、 女川原発の増設の調査をしていた東北電力が1990年、津波が残した砂などの分析から、 仙台平野では海岸線から3キロ浸水する大規模な津波だったとの調査結果をまとめていた。

文献記録を無視するのは東京電力だけではない。 NHK総合TV(2011/5/26)の『ニュースウォッチ9』によれば、 関西電力は、若狭湾に大きな津波が起きたことを示す歴史文献があることを知りながら、 原発の立地について、住民には過去に津波が起きた記録はないと説明してきた。


追記
東京新聞(2012/5/4)「こちら特報部」
福島第一原発の元技術者へのインタビュー記事から:
「福島第一は古いし、六基もあるからしょっちゅう停止する。それなのに、 少しでも稼働率を上げたい会社は調査もしないで、何とかごまかそうとしていた」 運転日誌を都合よく書き換えるのも日常茶飯事だった。

通産省の対応にも疑問を感じていた。「実際に原発を動かしたことがないのは 致命的ですよね。書類を提出しても、直されるのは『てにをは』ぐらい。 技術に関することは指摘できない。こちらが作った書類の表紙を『通商産業省』と 書き換えていたこともあった」と打ち明ける。

知識がつけばつくほど、原発に関する矛盾が膨らんでいく。

91年10月、決定的な出来事が起こる。1号機のタービン建屋の配管から冷却用の 海水が漏れ、非常用ディーゼル発電機が使えなくなった。

「この程度で電源が失われるなら、大きな津波が来たらメルトダウンになるんじゃ ないか」。そう問い掛けたら、上司が返した答えはこうだった。 「その通りだよ。でも、安全審査の中で津波とシビアアクシデントを結びつける のはタブーなんだ」

「お金と時間がかかるから対策なんて取っていられない、ということだったん でしょうね。この上司は、福島第一に来るまで本社で安全審査を担当していた。 一定規模の津波が来ればどうなるか、みんな分かっていたんです」


※10 東京新聞(2011/4/15)の「こちら特報部」によれば:
IAEAは安全基準の「プラント設計に関する要件」で過酷事故対策を準備するよう求め、 序文で「法律上および規制上の枠組みの中で…」と明記している。公的機関による対策 づくりを前堤にしている。日本で該当する機関は原子力安全委員会と原子力安全・ 保安院。

保安院が直接的な規制を担当。安全委は規制や政策の企画や決定、規制の 監視・監督を行うことになっている。

ところが、安全委はこの役目を放棄している。安全委は1992年過酷事故に関する 決定文を公表。これによると、電力会社の自主努力に任せる、つまり丸投げする という意味だ。

決定文には「シビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは 考えられないほど発生の可能性は十分に小さい」との記述もある。


※11 毎日新聞(2010/12/16)の「記者の目」(西村浩一) によれば:
「核兵器製造の潜在能力は常に保持する」とした69年の外務省の文書 「わが国の外交政策大綱」が11月29日、公表された。今回の公表は、 10月3日のNHKスペシャル「核を求めた日本」を受け、前原誠司外相が調査を指示、 その結果行われた。
これはNPT加入の際の動きだという。


※12 東京新聞(2011/4/17)は、 「アクシデントマネジメント整備有効性評価報告書」(02年)と 「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書」(04年)という 文書を取り上げている:
報告書によると核燃料を覆う管が高温で損傷することにより、水素ガスが発生。 水素爆発を起こし、格納容器に大きな圧力がかかる可能性がある。だが、格納容器 内は不活性ガスの窒素で満たされているとして

「この事象は考慮する必要がない」

と記していた。2号機格納容器下部にある圧力抑制室で爆発が起きたとされる。 1、3号機でも、水素が格納容器に漏出。炉内で発生した配管のすき間などを通って 外側の建屋上部にたまり、爆発を起こしたとみられるが、報告書では想定して いなかった。


※13 東京新聞(2011/4/20)によれば:
1999年の東海村臨界事故がきっかけに、国からの30億円の 補助金を活用し東芝や日立製作所、三菱重工業といった原発メーカーが原発災害向け の作業ロボットの開発を進めたが、国からの資金が続かず、実用化の道は途絶えた。
TBSテレビ『NEWS23クロス』(2011/5/18)によれば:
JCO臨界事故をきっかけに通産省が原発事故に対応するロボットの開発をスタート させた。6台作られたロボットは、40分の見学で電力会社に必要ないとされ、1年後、 廃棄された。「ロボットが必要な事態は起きない」と。

※14 東京新聞(2011/4/19)によれば、 原子力発電所の安全性について 「大きな地震や津波にも耐えられるよう設計されている」 と教える副読本が、全国の小中学校に配布されている。 発行は文科省と資源エネルギー庁。制作は日本生産性本部。

TBSテレビ『報道特集』(2011/4/16)によれば、これらの副読本には、設計は 「想定されることよりもさらに十分な余裕を持つ」ようになされている、 と書かれている。原子力推進の副読本だけではなく教員に対するセミナーも 行われている。そこでは「放射線は危険でない」と書かれたテキストが使われた。 原子力は国策だとして、地理教科書の反原発運動に関する記述から「危険」という 言葉が検定に合格したあとでも削除させられた。

東京新聞(2011/5/17)によれば:東電の広告費は90億円。交際費は約20億円。 ジャーナリストの青木理氏は「2008年、大阪の放送局が(原発の危険性を警告してきた) 京都大学の小出裕章氏らを取材して放送したドキュメンタリーがあったが、電力会社 が抗議して番組から広告を引き揚げた。電力会社は否定しているが、局幹部にも原発の 安全性を強調した講習を受けるよう要求したようだ」と。さらに 「広島のテレビ局が低線量放射線による被ばく問題を放送した時、地元電力会社から 広告引き揚げの圧力を受け、当時のプロデューサーらが左遷されたこともあったと聞く」 と。東電のマスコミ対策は250億円以上と言う評論家もいる。 (追記:『別冊宝島1821号』によれば、大阪毎日放送からのCMの引き上げはなかった が、関西電力社員による報道部中心の社内研修があり、原発見学ツアーに参加した という)

週刊金曜日(2011/6/17)によれば:日本の電力業界は、国内最大規模の広告主であり、 年間約880億円(日経広告研究所の数字)も使う。

TBSラジオ(2011/16)の番組にゲスト出演した倍賞美津子は映画『生きているうちが 花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(1985)について話した。原発の底辺労働者が 出てくる映画だったので、当時、上映に圧力がかかったと。

この国は中味のない「りっぱな言葉」で造られたハリボテだ。 そして国家・官僚システムに対する異論を許さない、情報統制の国である。


追記
週刊現代(2012/4/21)の対談記事(後藤政志×志村嘉一郎)より:
(志村):昨年、有価証券報告書で明らかになったのですが、東京電力が株を 持っている会社のうち、上位30社の中にテレビ朝日やTBS、松竹などのメディアが 入っていました。フジテレビには東電元社長の南直哉氏が監査役で入っていますし、 NHKも経営委員に東電OBを迎えていた。日銀にも東電のOBがいます。 経産省の天下りを入れて、気象庁、警察からも受け入れている。さらに 国会議員には政治献金を配り、パーティー券を買って…。

東電は広告会社などを使って、新聞、テレビ、雑誌などを全部チェックしています。 東電へ天下りした官僚51人のうち、32人が警察OBなんです。恐らく彼らがやって いるのは、東電に批判的な人の動向や身元をチェックすること。


追記
東京新聞(2012/5/19)「こちら特報部」より抜粋:
NHK経営トップの数土文夫氏が、東電の社外取締役に就くという(注)。 NHKは、電力業界と密接につながっている。昨年9月末現在の中間財務諸表によると、 NHKは計925億円の事業費(社債)を保有。上位五社はすべて電力会社が占めている。 電力会社の経営状況が悪化すれば、NHKにも影響が及ぶ。NHKの元政治部記者、 川崎泰資・椙山女学園理事は「NHKが脱原発デモをほとんど報じていないことでも 分かるように、局内には原発に批判的な番組はつくりにくい雰囲気がある」と指摘 する。自身も以前、原発事故関係の取材をやめるよう圧力を受けたこともあったと 明かした。
注:批判が相次ぎ、数土経営委員長はNHKの経営委員の方を辞任した。
※15 毎日新聞(2011/6/5)の評論「反射鏡」(論説委員・伊藤正志)は、住民が 原発に反対する裁判を起こしても負けてしまうことについて、最高裁の責任を指摘した。

「もんじゅ」訴訟の2審は、「もんじゅ」設置許可の無効を確認した(03年)。 しかし、最高裁が2審をひっくり返す判決を下した(05年)。その際、高裁の 事実認定を大幅に書き変えた。

最高裁は事実認定はせず、原審の法解釈に誤りがないかを調べるものと言われている。 これを専門用語で「法律審」という。つまり2審の判決が国側に都合が悪かった 「もんじゅ」訴訟では、ひっくり返すために最高裁は「法律審」の原則を無視した のである。

一方、2審の判決が国側に都合が良かった「柏崎刈羽原発」訴訟では、 最高裁は「法律審」であることを理由に、住民の請求を退けた(09年)。

伊東良徳・弁護士は、最高裁の姿勢を 「国側を勝たせたいということだけが一貫している」と批判しているという。


※16 NHK総合テレビ『ニュースウォッチ9』(2011/7/6)によれば、今まで、 原発の危険性を争った主な裁判は15例あり、最終的に危険性を認めない判決が確定 してきた。こうした判決の裏には、裁判官を集めた最高裁の会議があった。 その記録(昭和63年)によれば、「高度な専門知識を持つ行政庁のした判断を一応尊重 して審査に当たる」、と示されていた。

※ 結論が最初から決まっていたのと同じである。こんなのは裁判のフリにすぎない。 この国は表面は近代的だが一皮めくると違う 顏が見えてくる




著:佐藤信太郎
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